海士町の総合計画のことを考えながら、朝日新聞社経済部が編集した『日本縮小:ダウンサイジング社会への挑戦』を読んでいると以下のような文章に出合った。
・日本全体が右肩上がりの人口増加を続けた高度成長期にも、農村部は激しい過疎の波に襲われた。その反動もあって、70年代以降は「国土の均衡ある発展」の名の下に、日本中の地域が人口増と地域経済発展の夢を追い続けた。しかし、全体の人口が減る中では、全部の地域の人口が増えることは望めない。
・90年代後半以降、多くの地域が長期計画などでの人口の将来見通しを減少に切り替えてきた。市町村レベルではまだ、「増加」の期待を持ち続けているところも多いが、県単位ではあまりにも現実から離れすぎるため、実態を勅旨する姿勢に移らざるを得なかったようだ。とはいえ、自らの地域の将来像を描ききれているわけではない。高度成長期以後の地方経済は、製造業の工場誘致による繁栄を目指し、バブル崩壊後にそれが立ち行かなくなると公共事業への依存を深めてきた。全国的な人口減少下でその図式が今後も可能かどうかの疑いは深まっている。出生率を上げ、流出も止めることで少しでも減少を食い止めるのか、それとも減少を受け入れたうえで新しい工夫であかるい青写真を描きうるのか。悩みは深い。
・東京郊外の埼玉県志木市。「市町村長の廃止」といった斬新な構造改革特区の提言などで知られるこの市が03年2月にまとめた「地方自立計画」はその基底に厳しい人口見通しを置いている。65歳以上の人口比率が01年の12.3%から11年には20%に、16年には24.7%と急伸し、税収減と社会保障関係支出の増大などで急速に財政が悪化する、というシミュレーションである。同市ではこの難局を乗り切るために、職員の新規採用の20年間凍結と市民が社会貢献として公務を担う「行政パートナー」の仕組みを採り入れるなど、行政サービスを極力低下させずに「小さな自治体」を実現する方途を模索している。
いずれも、海士町をはじめ全国の市町村における長期計画を立てる際に重要な視点だ。都道府県でもいまだに将来の人口推計をマイナスにしたがらない担当者がいると聞く。市町村については、多くの場合がんばればまだ人口が増えると期待している。長期的に人口増加を保つことができる魔法を知っているのであれば話は別だが、そうでなければ仮に一時的な人口増加を達成したところでいずれは人口減少社会を体験することになるだろう。そのときになって慌てることになるとしたら、それは問題の先送りでしかなかったということだろう。それよりはむしろ、人口減少下で幸せに暮らす方法を自分たちで発明するという態度が望ましい。志木市の「行政パートナー」という仕組みはすばらしいものである。この仕組みが実現したのか、実現したとしたら課題はどんなものなのかについて調べてみたい。
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