2009年1月31日土曜日

ライブラウンドアバウトジャーナル

午前11時から銀座のカフェにて都市再生機構の武田氏と打合せ。今後のことについて話し合う。

正午から、studio-L TOKYOの岡崎さんとイラストレーターの栗原崇さんと西上さんとで海士町の総合計画に関する冊子の打合せ。海士町の住民が提案した施策について、具体的にアクションを起こすための冊子をデザインする。そのなかに、栗原さんが描いたイラストを配することになる。面白いイラストが登場する予定。

午後1時過ぎにINAX銀座へ。本当は11時の開演からプレゼンテーションを聞きたかったのだが、上記打合せのため会場に入ったのは自分のプレゼンテーションの直前。ドットアーキテクツの3人がプレゼンテーションしている最中だった。何度聞いても面白い設計プロセスである。平面図担当、模型担当、ディテール担当の3人がそれぞれの思いでそれぞれの作業を進める。当然、すり合わせないと3人のプランは整合しない。だから、たまに集まってプランを整合させては、またバラバラにそれぞれの作業を進める。しばらくするとまた集まってズレを修整する。そんなことを繰り返しながら建築のプランを作り上げるという独特の設計プロセス。面白いバランスである。

ぼくからの話題提供は「設計の上流に遡る」というテーマ。この言葉は、ラウンドアバウトジャーナルの主宰者である藤村龍至さんに教えてもらったもの。藤村さんが建築家の大江匡さんと話をしているときに出てきた言葉なんだとか。「設計の上流に遡る」というのは、建築を設計するかしないかを考えるところから始めたいという想いの現われである。つまり、「つくる」ことを前提にしないという態度である。ある課題について相談されたとき、すぐに設計の仕事だといって喜んで飛びつかないほうがいいだろう、と思っているのである。つくらずに解決できる問題であれば極力モノを造らない。どうしてもつくらなければ解決できない課題だということになってはじめて設計をスタートさせる。そんなデザイナーでありたいと思う。また、もしつくることになったら極力利用者をつくるプロセスに参画させたい。完成品を与えられて、設計者の意図どおりに使わされる人を増やしたくないのである。市民をお客さん化するような設計プロセスはもったいないと思うのである。

建築をつくることを専門にする人たちばかりが並ぶラウンドアバウトジャーナルで、「つくる必要は無いんじゃないか」なんて発言をしたものだから、みんなから猛攻撃を受けるものと覚悟していたのだが、意外にもたくさんの人が「つくらなくていいならつくらない」という感覚を共有してくれた。サンドバッグのように攻撃されることを覚悟していた僕としてはとても意外な展開である。

その後のディスカッションでは、有形なモノのデザインと無形なコトのデザインについて、その設計プロセスの共通点が見えてワクワクした。特に、『アーキテクチャの生態系』という本を出した濱野智史さんが教えてくれた「アーキテクチャ」という概念は、まさに僕たちがまちづくりの現場で行っているマネジメントやファシリテーションの概念にそっくりで、「住民参加のアーキテクチャ」という言葉が僕のやっていることを説明しているような気がした。まさに僕は、住民参加のアーキテクチャをデザインしているんじゃないか、と思ったのである。

もうひとりのコメンテーターである南後由和さんは、シチュアシオニストやアンリ・ルフェーブルなど思想的な面で議論したい内容をたくさん持つ人。だが、今日はもっと具体的な話を進める場だったこともあり、会場ではほとんど議論しなかった。会が終了した後、個別に話をする時間があり、そのときに南後さんが考えているプロジェクトのひとつを聞くことができた。従来の建築設計コンペに代わる新しいタイプの課題発掘コンペを企画していて、僕たちが進めている「i+d workshop」に通じる内容だったのでとても興味深かった。ぜひ、いつか一緒にプロジェクトを進めたいものである。

司会進行を務めたのは、今日が初めての司会だという倉方俊輔さん。初めてとは思えないほど鮮やかな進行だった。この人は冴えた人である。これから、いろんな場所で引っ張りだこになるだろう。すでに大阪でも、倉方さんを呼んで近代建築に関する勉強会を開催しよう、という動きがある。

会場には、鹿島出版会の川尻大介さん、マルモ出版の尾内志帆さんが来てくれていた。いずれも、個別に新しいプロジェクトを企画したいと思っている人たちである。さらに、筑摩書房の天野裕子さん、森美術館の椿玲子さんと藤川悠さん、新建築社の四方裕さん、坂倉建築研究所の高沼晃子さん、建報社の遠藤直子さんなど、面白いことを考えている人たちと知り合うことができた。こういう人たちと一緒に、単にモノをつくるだけではない「建築的な思考」の可能性を、もっともっと模索してみたいものである。

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