2004年11月28日日曜日

「雑誌の編集」

雑誌の編集に携わるかもしれない。ランドスケープに関する雑誌の編集を担当しないか、という打診を受けている。でも僕は、雑誌がどうやって出来上がるのかを知らないし、広告をどうやって取ってくるのかもわからない。わからないけれど、新しい雑誌のディレクションを頼まれているからそれに応えたいと思っている。僕が編集した本が書店のランドスケープを変えるのなら、それも僕の仕事だと思い込むようにしている。

だから最近は雑誌が気になってしょうがない。ふと「pen」という雑誌が目に留まった。今回の特集が面白そうだったからだ。テーマは「美しいブックデザイン」。ついつい立ち読みしたくなるテーマだ。

立ち読みをし始めてすぐ、僕は内容の濃さに驚嘆した。今まで僕は、編集者という視点から雑誌を分析したことなんて無かった。改めて作る側から雑誌を眺めると、雑誌が持つとてつもない情報量に唖然としてしまう。

まずは広告がすごい。最初のページがベンツの見開き広告。次のページはソニー。さらにケント、バーバリー、フジフィルム、マイクロソフト、グッチ、アルマーニと続く。どうすればこういう企業の広告契約を獲得できるのだろうか。

アルマーニの次のページまで進むと、やっと目次が登場する。コンテンツがまたすごい。まずは立て続けに世界のニュースが並ぶ。ニューヨークから3つのニュース。パリからも3つ、ロンドン、ローマ、ベルリン、ストックホルム、北京、サンパウロ、それぞれ3つずつのニュースが掲載されている。文章と写真は現地在住のライターが担当しているのだろう。執筆者や撮影者の名前を調べると、どうやら各都市に2~3人の契約ライターがいるようだ。

特集の内容もすごい。ムナーリの絵本、CBSのブックデザイン、原弘の装丁、バーゼル派のグラフィック、60年代のチェコデザイン、オッレ・エクセルのデザインを立て続けに紹介。さらに、現在の人気グラフィックデザイナー5人に「自分にとって重要なブック・デザイン」を聞いている。その人選も冴えている。一昔前のブルース・マウ路線ではなく、まさに今が旬のイルマ・ボームを筆頭に、マルコ・ストリーナ、フリードリッヒ・フォスマン、原研哉、チップ・キッドという顔ぶれ。半年前、かなりがんばって原研哉さんとの対談を実現させたことを思い出す。「pen」は、その原さんを含めた世界のグラフィックデザイナー5人に「重要だと思うブックデザインを挙げよ」と問いかけているのである。これはとてもかなわない。素直にそう思った。

その後のページでも、日本の個性派グラフィックデザイナー4人、世界の人気出版社3社、5人の書店店長が進める本15冊などが紹介されている。ここまでくると、何をどうすればこういう特集を実現できるのかがまったくわからない。僕の知っている世界とはまったく違うロジックで、雑誌という1冊の作品が組み立てられている。そう感じた。

特集のほかに11本のコラムが連載されている。さらに第2特集として「銀塩のような味が出せるデジタルカメラ」が紹介されている。すでに記事の内容はほとんど頭に入っていない。総ページ数は215ページ。これだけの情報量を毎月編集している人がいる。そのことを考えたとき、僕が取り組もうとしていることの重大さを改めて思い知った。

いや、もっと正確に表現すると、その重大さを思い知ったのはもう少し後のことだった。そう、この雑誌が「毎月」ではなく「月2回」発行されているのを知ったときだ。そのとき僕は、編集者の能力と作業量の甚大さを思い知ったのである。

僕はきっと違う路線を探すことになるだろう。情報収集の方法、執筆依頼の方法、写真撮影の方法、どれをとってもこんなに大規模で高速度な編集はできない。販売も同じだ。一般の書店に並ぶような流通経路とは別のルートを探すことになるだろう。定期購読から始めるべきなのかもしれない。考えるべきことは山ほどある。そのことに気づいただけでも相当有意義な立ち読みだった。

いや、立ち読みしている場合ではない。さっそく購入して内容を粒さに研究しなければ。。。

レジで雑誌を購入する僕は、そのとき更なる驚愕を経験することになる。かくも多くの人に協力させて作った雑誌が、なんとたったの500円で売られているのである。僕が新しい雑誌に対して漠然と考えていた定価の3分の1の値段である。発行部数と広告数のうまい連動があるからこそ実現できる定価だということはわかっているつもりだ。わかっているつもりだが、500円はあまりにもお買い得すぎると思うのである。

雑誌の編集を引き受けるのであれば、相当本気で編集の方向性を検討しなければならない。しごく当たり前の決意を再確認した夜だった。



山崎

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