アウトレットモールへ行く。特に買いたいものがあるわけではない。休日のレクリエーションとしてアウトレットモールという方法があるのではないか、と思ったからだ。
僕たちはレクリエーションというと公園を思い浮かべる。公園を設計している者の悲しい性だ。市民の健全なレクリエーションのために僕たちは公園を設計している。建前はそういうことになっている。ところが、世の中には公園のほかにもレクリエーション施設がたくさんある。いや、むしろ他のレクリエーション施設のほうが公園よりも人気がある。
ディズニーランドはその典型だ。公園よりもよっぽどレクリエーション機能を備えている。日常とは違う世界を味わうことによって、再生産のための鋭気を養うことができる。「ディズニーランドなんて消費社会にどっぷり浸かったレクリエーション施設じゃないか」という批判は意味が無い。ディズニーランドに代わる「健全な」レクリエーション施設が存在するとしても、それは所詮レクリエーションのための施設なのだから。
そもそもレクリエーションという概念自体が消費社会の産物なのである。レクリエーションとは「Re-Creation」であり、日々の仕事の効率を上げるために行う再生産行為である。つまりレクリエーションの目的は「日々の仕事」という消費社会を加速させるための行為なのだ。そんなレクリエーションのための施設に対して、それが「消費社会に迎合するものであるかどうか」を問うことはナンセンスなのである。
そんなことを考えながら、消費社会が生んだレクリエーション施設であるアウトレットモールを見に行った。日曜日のアウトレットモールは大変な賑わいである。人々は、アトラクションに乗る代わりにショップの品を眺める。「ビッグサンダー・マウンテン」に乗る代わりに「ナイキ」の新作シューズを試着する。「カリブの海賊」を見る代わりに「ユナイテッドアローズ」の商品の値段に驚く。
こうした体験も日常生活からの逸脱である。日常生活における商品の値段は固定されている。「ボーズ」のスピーカーの値段は決まっている。「レゴ」のブロックの値段も決まっている。定価、つまり定められた価格で売られる。ところが、アウトレットモールには定価とは違う値段が並ぶ。日常とは違う値段の世界がそこに広がる。その世界に身を浸すことは、十分にレクリエーション機能を持つ。
もちろん、値段が安いからといってすべての商品を買うことはできない。ほとんどの商品は「安い」という状況を体験するだけの対象となる。それだけで気持ちがいいのである。「グッチ」「プラダ」「アルマーニ」。日常世界で慣れ親しんだブランドの商品が、日常世界とは違う値段で売られている。それだけで非日常的なのである。ディズニーランドと同じく「異世界」を味わうことができる場所なのである。
アウトレットモールの外観がディズニーランドと同じくコロニアルスタイルなのも偶然ではないだろう。植民地時代の建築様式は、現代人が異世界へ浸るための記号になっている。ディズニーランドもアウトレットモールも、和風であってはならないのである。茅葺民家が立ち並ぶ集落を再現したアウトレットモールは、必ず失敗することになるだろう。異世界は、「時間」と「空間」の両側面において日常世界から遠く離れていなければならないのである。
アウトレットモールがディズニーランドに似ているのは、帰る人たちを眺めていてもわかる。アトラクションを楽しむための施設であるディズニーランドには、出口付近に多くのお土産屋さんが立ち並ぶ。夢の世界の思い出を日常世界に持ち帰りたい人々は、そこでいくつかのお土産を買って帰る。持ちきれないほどのディズニーグッズを買って帰る人を見かけることもあるが、多くの人は片手で持てるくらいのお土産を買って帰る。
アウトレットモールから帰る人も同じくらいのお土産しか持っていない。ショッピングを楽しむはずのアウトレットモールから帰る人が、ディズニーランドの客と同じ量の商品しか買わないというのは不思議なことかもしれない。しかし、異世界に身を浸すという機能から考えると、ディズニーランドもアウトレットモールも同じなのである。どちらもアトラクションを楽しむ空間であり、どちらもショッピングを楽しむ空間なのである。
その意味で、アウトレットモールの売り上げはそれほど大きくないのではないかと心配してしまう。人々は安い値段を楽しんでいるだけで、ショッピングを楽しんでいるわけではない。帰る人が手にしているお土産の量もディズニーランドのそれと変わらない。だとすれば、個々の店舗の売り上げは伸び悩んでいるはずである。入園料を取らないアウトレットモールはどうやって生き延びるのか。興味深いテーマである。
同じく入園料を取らない公園がどう生き延びるのか。これまた興味深いテーマである。
アウトレットモールの賑わい
山崎
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