2005年4月27日水曜日

「素材に触発されるデザイン」

机の上の1本の棒が置いてある。紡績工場で使われていたという古びた棒だ。なんとなく愛嬌のあるカタチなので、机の上のペン立てに挿してある。



この棒を僕にくれたのは「refs」を主宰する太田順孝さん。偶然、紡績工場に眠っていた使い古しの糸巻軸に出会った太田さんは、そのカタチや手触りに魅せられたそうだ。そしてすぐにその棒を大量に貰い受けて家具をデザインし始めたという。

家具といってもシンプルなものである。太田さんが施したデザインのオペレーションは、合板に無数の穴を空けること。その穴に件の棒をランダムに差し込む。棒の配置によっていろいろ活用できる家具ができあがる。




太田さんがデザインした家具

使わなくなった紡績の糸巻棒を素材として活用すること。合板に穴を空けただけのデザインに留めること。このシンプルな操作によって生まれた家具は実に好感が持てる仕上がりとなっている。もちろん、この家具は使う人が自由に棒の位置を組み替えることができる。

この家具の場合、紡績工場で糸巻棒を見つけ、それを家具に活用しようと思った時点でデザインの70%は完成しているといえよう。いかに魅力的な素材に出会うか。そしてその素材を活かす方法を思いつくか。僕はそんな単純なデザインプロセスに魅力を感じる。

ふと世界を見渡してみると、そんなデザインプロセスを展開しているデザイナーが台頭しつつあることが分かる。例えばオランダのピート・ヘイン・イーク。彼が手がけるスクラップウッド家具は、最近日本でも注目され始めている。彼は、建築の解体現場や粗大ゴミ置き場で拾ってきたスクラップウッドを切り刻んで、それらを再構成することによって家具を作り上げる。



ピート・ヘイン・イークの家具

スペインのリリアナ・アンドラデとマルセラ・マンリケの2人は、バルセロナ市の街頭に設置されるバナー広告を活用してバッグや帽子をデザインしている。バルセロナのバナー広告は一流のデザイナーが手がけることで有名だ。しかし、それらバナーは広告期間を過ぎると廃棄されてしまう。そこで、リリアナとマルセラは廃棄されたバナーをバルセロナ市から貰い受けてバッグを製作し始めたという。




リリアナ+マルセラのバッグ

デザイナーの中には、いかに素晴らしい素材を別注で作ってもらったかを自慢げに語る人がいる。どれだけ素材にこだわったか、どれだけ思い通りのデザインになったか、どんな珍しい素材を開発したか、などを強調する人がいる。そうしたメンタリティも悪くは無いが、僕らが生活する街にはまだまだいろんな素材が溢れかえっている。廃棄されたり放置されたりしている。そんな素材に出会い、触発され、少し手を加えてデザインするという方法もあるのではないだろうか。

素材に触発されるデザイン。特にエコを意識しているわけではない。そんな太田さんやピート・ヘイン・イークやリリアナ+マルセラのデザインに僕は共感を覚える。

山崎

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