2007年1月28日日曜日

「人口減少時代の都市」

秋葉原で「ファイバーシティ×シュリンキングシティ」という展覧会が開催されている。この展覧会にあわせて、「トーク・イン」という連続レクチャーも開催される。夕方から、その第1回に参加した。

はじめに大野教授(東京大学大学院)から「都市が縮小する時代の特徴」の整理がなされた。都市が拡大した時代と違って、都市が縮小する時代にはいかに豊かな時間を過ごすための空間を準備すべきかが課題になる。これまでの効率的な空間管理や空間整備から、人々が「いい時間を過ごすことができた」と思えるような価値をどのように生み出すのか。都市が縮小する時代のデザインは、このことを体現させるものでなかければならないとの指摘があった。

続いて、日高特任助手と山代助手(ともに東京大学大学院)による「空間占有のマネジメントから時間価値の創造へと移るアーバンデザインの手法」についての発表がなされた。大野先生の指摘する「いい時間を過ごしたと思える価値」を創造するために彼らが用いる手法は大きく3つに分かれており、それぞれ「インスタレーション」「コラボレーション」「パフォーマンス」と呼ぶ。「インスタレーション」は場所の文脈を尊重し、既存の空間との呼応のなかでその状況に少しだけ介入することによって最大の効果を生み出そうとする手法。「コラボレーション」は主にコミュニケーションのデザインであり、新しい合意形成のための手法。多様な主体がコラボレーションする場合には、共通言語としてのメディアが必要になることが多い。またトライ&エラーを繰り返す都市実験(社会実験)の可能性を探る必要がある。特にこれまで失敗が許されなかったアーバンデザインにおいては、いかにエラーを許容して次の成功へと結びつけるか、という思想が求められる。「パフォーマンス」はまさに時間のデザインであり、それを経験する人にとって最高の価値を与えるイベントを実施する手法。単なるイベントではなく、持続可能なイベントの連続体としてのシステムをつくりあげることが求められる。同時に、イベントの内容についても新たなアクティビティを誘発するようなものであることが望ましい。以上3つの手法を用いながら、これまでの硬直的で合理的なアーバンデザインを時間価値創造のアーバンデザインへと変貌させることが、都市が縮小する時代に求められることだと結論付けられた。

一方、梶原氏(都市デザインシステム代表取締役)からは、高度経済成長期とは違った都市開発の事例が多数紹介された。既存の古いホテルをリノベーションして再生させた「ホテルクラスカ」や沖縄やベトナムにおける「森を増やすリゾート開発」など、これまでの自然破壊型開発とは違ったデザイン手法が示された。

田中氏(春蒔プロジェクト主宰)からは、アーティストやデザイナーが共有して使うワークスペースの提案や、既存の公園や緑地に乗り付けて必要な機能を提供するトレーラーの提案など、縮小する都市に必要な「共有(シェア)」の概念に基づいたアーバンデザイン手法が提示された。

岩本氏と墨屋氏(ともにボートピープルアソシエーション主宰)からは、使われなくなったバージ船を利活用したカフェや庭や会議スペースのプロジェクトが紹介された。多様な機能を付加されたバージ船が複数集まれば、海上にひとつの街をつくることができる。この移動可能な街こそが、陸上交通が寸断されてしまう震災時などに役立つのではないか、という提案がなされた。

今回のシンポジウムで発表されたように、柔軟なアイデアを活用しながら、膨大な行政負担をかけずに、民間の力をうまく組み合わて人口減少時代の都市経営に関する具体的な施策を展開することが重要である。人口減少時代の都市を考える際の前提条件が、成長時代とはまったく変わってしまっていることを改めて実感したシンポジウムだった。

山崎

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