2007年2月4日日曜日

「すべてを計画しつくさない」

前回に引き続き、「ファイバーシティ×シュリンキングシティ」のトークインに参加する。

はじめに、木下氏(設計組織ADH)から日本における人口減少期の特徴とその課題についての整理がなされた。木下氏はそのなかで、日本における人口減少期の特徴を少子高齢社会であることとし、特に高齢者が集まって住む際の空間構成について言及した。高齢者のコレクティブハウジングについては、居住者全員の目線が届く中庭を設けることにより、毎日誰かと顔を合わせることができる集住の形態を提案する。また、高齢単身者や高齢家族だけでなく、障害者や一般家族など多様な家族構成が一緒に暮らすコレクティブハウジングが重要だと指摘する。さらに、コレクティブハウジングの設計ポイントとして、歩車分離を徹底し、基本的に歩行者や自転車を優先する平面配置とし、歩行者用通路で各住宅をつなぐことなどを挙げた。さらに、各住戸のキッチンを歩行者専用通路に面して配することによって、通路に常時住まい手の目線がある状況を作り出すことなどを提案した。同時に、24時間水道を使わなかった場合に管理センターへ連絡があるなど、独居老人のケアなどについても新しい提案がなされた。

続いて林氏(ベネッセコーポレーション)は、ベネッセで有料老人ホームの企画に携わってきた経験を通じて、地域に開かれた老人ホームのあり方について提案した。有料老人ホームをつくると、数年の間に半径3kmくらいの生活圏域ができあがる。その後は、時間が経っても圏域は広がらないことから、老人ホームにとって半径3kmという数字がコミュニティのサイズを示しているのではないかとの指摘がなされた。ということは、逆に有料老人ホームの入居者を募集する際でも、半径3km内のターゲットに絞ってマーケティングを考えればいいということになる。そこで、有料老人ホームをオープンさせてからでも、ホームに本屋さんや靴屋さんを一時的にホームへ呼び込んで、入居者のニーズを満たすイベントなどを実施している。このイベント準備として地域の本屋さんや靴屋さんにホームまで来てもらうよう要請するのだが、事後には本屋さんや靴屋さんが他のお客さんにホームのことを伝えてくれるようになるという宣伝効果がある。こうして、半径3km以内に生活圏域をつくり始めれば、有料老人ホームに入居したいという人が次第に地域の中から現れてくる、というのが林氏の経験だと言う。

都築氏(編集者)は、都市は思いのままにならないということの面白さを指摘した。人口減少時代には特に都市は思うとおりにならないのだから、建築家や都市計画家が思う方向とはまったく違った方向に都市は向かい始めるだろう。そのとき、建築家や都市計画家はいったい何ができるのか。都築氏は、どこまで計画者が介入するべきで、どこから先は介入すべきではないのかを見極められる人の存在が重要だと述べた。都市は、つくり手が考えている方向とはまったく違う方向に動き始めている。建築家や都市計画家はこれにどう対応すべきか/対応せざるべきか。人口減少期には、もう一度そのことを問い直したほうがいいのではないか、と語った。

日本における人口減少時代の特徴を少子高齢社会であると認識するのであれば、高齢者の生活に関する問題点、高齢者と社会との関係性に関する問題点などを解決する必要があるだろう。その際のキーワードは、「すべて計画しつくさない」ということ。多自然居住地域の高齢者であっても都市部の若者であっても、計画者が意図した計画の枠内に収まって「生活させられる」のでは、いつまで経っても主体的な活動には近づかない。いかに生活者中心の生活空間を構築するのか、ということが今後の計画論における大きな課題になることを実感した。

山崎

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