山梨駅からタクシーで10分。長谷川逸子さんが設計した「山梨県笛吹川フルーツ公園」を視察する。3つの果物が地面に転がっているような建築群が特徴的である。いずれの建築も一部が地面に埋まっているように見える。地上に出ている部分はそれぞれエントランス施設、温室、パークセンター。果物に関する情報は地下空間に展示されている。
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パークセンターと温室
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地下のアプローチ空間
温室で妙なサインを見つけた。「花が咲いています」というサイン。そんなことは見ればわかる。どこに花が咲いているかを探しながら歩くからこそ、発見したときの喜びを味わうことができるのだ。「花が咲いています」というサインによって花が咲いていることを気づかされてしまうのは面白くない。きっと苦情があったのだろう。どこに花が咲いているのかわからない。実がなっている木を知らせるサインがほしい。来園者の勝手な要望を運営者が鵜呑みにした結果、植物を見るより先にサインを探してしまう温室が出来上がってしまった。運営サイドは自信を持って「発見の喜び」について語るべきだったのではないだろうか。
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花が咲いています
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実がついています
次にタクシーで向かったのは「アリア・ディ・フィレンツェ」というファッション工業団地。貴金属や革製品の会社10社の工場が並ぶ街である。奥の方には結婚式場と教会もある。設計はすべて北河原温さん。
およそ僕がイメージする工場団地からは程遠い、整った街並みである。周囲を囲む山の形をうまく読み取って、その前面に建つ建築物の形態へしっかりと反映させている。単調になりがちな街並みも、バラエティーに富んだ工場の形態によって画一化を免れている。2つの工場が1つの庭を共有しているケースも見られる。少しバブリーな様相は時代のせいだとすれば、1人の設計者が部分から全体までを設計したことが功を奏した事例だといえるだろう。
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1つの庭を共有する2つの企業
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脱構築的な建築もある
教会の名称は「水と風の教会」。敷地南側に配した水面で太陽光が反射して、教会内部の天井に波紋を映し出す。また、同じく南側に設置された無数のステンレス板が風で揺れるたびに、天井の反射光がダイナミックに揺れ動くことになる。だから「水と風の教会」なのだという。
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教会の外観
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教会の内観
さらにタクシーで「愛宕山こどもの国」と「愛宕山自然の家」へ。どちらも設計は仙田満さん。ユニセフパークプロジェクトの施設設計を検討する上で参考になりそうなネタを探す。「自然の家」の食堂に長いスロープが付いているのはユニークだ。食事に向かう子どもたちは、すでに食事している人を見下ろしながら食堂へアプローチする。その長い道のりの間に、子どもは「誰がどの席で食事しているのか」を把握し、「自分はどの席で食事するのか」を判断できる。子どもの行動特性をしっかり読み解いた結果のカタチだといえよう。
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愛宕山こどもの国「斜面遊具」
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愛宕山自然の家「食堂」
その後、最後の目的地である山形文化会館へタクシーを飛ばす。丹下健三さんの設計。写真で何度も見たことのある建築だったが、実物を見るとやはりその力強さに圧倒される。山梨で見た他のどんな建築よりも力強いし面白い。1960-70年頃のメタボリズムグループによる建築があまり増殖していないのに比べて、丹下さんの山梨文化会館は実際に増殖している。写真を並べてみると、増殖の度合いが良く分かる。
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1970年ごろの山梨文化会館
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現在の山梨文化会館
外観からわかる新陳代謝だけでなく、内部の吹き抜け空間にスラブが設けられて2層の部屋になっていたり、新しい壁ができて空間が分節化されていたりと、内部の増殖も著しかった。メタボリズムを陰で操っていた丹下さんらしい建築である。
山梨文化会館の職員と話をした。彼は「有名な建築家が設計した建築だそうだが、もの凄く使いにくい。」と何度も言った。そういえば、アリア・ディ・フィレンツェの教会でもスタッフが空間の使いにくさを強調していた。どうやら、建築の「収まり/プロポーション/理論」を「使いやすさ」に優先させる建築家というのは時代を超えた存在のようだ。
「用」と「強」と「美」についてもう一度真剣に考えてみたほうがいいのかもしれないと感じた1日だった。
それにしても山梨県はクルマ社会である。当初は、今回の視察をバスで移動しようと考えていた。しかし、現場でバスのダイヤを見ると1日2本しか走っていなかったりしてがっかりすることが多い。結局、すべての視察先をタクシーで回ることになった。悔しいから、帰りは新宿まで高速バスを使って帰ることにした。その結果、日曜日の夜に山梨から東京へ高速道路で移動するのはまずいってことを実感した。八王子の手前で大渋滞。午後5時に甲府駅前を出て、新宿に着いたのが午後8時過ぎ。行きの2倍以上の時間を要した。
午後9時から渋谷で富樫信也さん、濱崎幸友さん、岩岡哲夫さんと食事する。富樫さんは渋谷FMのDJ、濱崎さんはデジタルミュージックの作曲者、岩岡さんは建築学科の大学院生で、「アリア・ディ・フィレンツェ」を設計した北河原温さんの研究室に在籍しているという。3人は、音楽やアートや建築を融合させたイベントを何度か実施している。これまでのイベントもかなり魅力的なものだと思ったが、今後は、より公的な空間でイベントを実施したいのだという。一緒に話をするうちに、大阪か東京で「公共空間プロジェクト」のためのコラボを実現させよう、という話になった。楽しみなプロジェクトである。
帰りに、ヴィト・アコンチが設計した渋谷マークシティエントランスを見る。ランドスケープっぽい仕事だが、ランドスケープデザイナーからは決して出てこないカタチだといえるだろう。
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ヴィト・アコンチのマークシティエントランス
山崎
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