今日の家島町は曇り空だった。時折、雲間から光が射すのを狙って、海や山や街を撮影した。島内を歩き回り、面白いと思ったものや美しいと思ったものを撮り続けた。
撮影の途中で、一人の男性に声をかけられた。その男性は、1年前に開催された家島町のシンポジウムを聞きに来てくれた人だった。パネリストとして出席していた僕のことを覚えていたので声を掛けてくれたそうだ。ありがたい話である。
「そのときの話が面白かったので。」という言葉とともに、その人は自家製の海苔を僕にくれた。今の季節、家島町では海苔づくりが盛んなのだという。その人がくれた海苔もできたてなのだそうで、火で炙ってから食べるように言われた。
不思議な気分になった。その人はなぜ今、僕に海苔をくれるのだろうか。たまたま自家製の海苔を持っていたことがそのきっかけだろう。1年前のシンポジウムの内容が面白かったというのもきっかけだろう。しかし、だからといって僕に海苔を渡す必要はないはずだ。あるいはその人は、僕に海苔を渡すことで何か他の見返りを期待しているのだろうか。いや、その可能性は低いだろう。次に会うのがいつになるのかも分からないような僕に、交換的な意味でモノを贈与するとは考えられない。
この海苔の贈与は、モースの言うところの平和のための贈与なのか。またはレヴィ=ストロースの言うところのコミュニケーション的贈与なのか。それともボードリヤールの言うところの象徴的な贈与なのか。あるいはバタイユの言うところの純粋な贈与なのか。
「1年前のシンポジウムであなたがしゃべったことは面白かったから、昨日私が家で作った海苔を差し上げましょう」。そんなことが当たり前に行われる家島が、僕にとってますます興味深い島になった1日だった。
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家島の海
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漁業用のウキ
山崎
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