2004年12月22日水曜日

「オープンスペースのマネジメント」

ユニセフパークプロジェクトのメンバー数人に誘われて、京都大原温泉の旅に出かけた。大原と言えば「味噌鍋」と「しば漬け」が有名だ。比較的標高の高い盆地に位置する大原は、寒暖の差が激しいことから味噌づくりやシソの栽培に適した土地だという。そのことから「味噌鍋」や「しば漬け」が大原の名産になっている。

「味噌鍋」や「しば漬け」以上に大原で有名なのは三千院である。ところが、三千院の歴史は思いのほか浅い。中世の頃からその場所にはいくつかの寺があったというが、正式に三千院という名称で取りまとめられたのは明治維新以後のことだという。だからだろうか。通常、自慢げに語られる寺の由来や故事来歴は影を潜め、代わりに説教を引用した張り紙やポスターが多く貼られていた。

2600平方メートルという広大な敷地ではあるものの、庭の管理は驚くほど行き届いている。寺風情を壊すような要素(雨水桝や塩ビ管など)は執拗に木皮で覆われ、樋や出水口には竹が用いられている。膨大な管理費が必要なやり方である。

この管理費を捻出できているのが三千院の運営が優れている点だろう。「大原三千院」という名前をここまで知らしめることになったテレビCM。付近の旅館や参道の店舗と協力したPR活動。親切なホームページの作成。JRと協力したポスターの作成。マスメディアを通じた広告に余念が無い。

マスメディアだけに頼っているわけではない。院内にもさまざまな仕掛けがある。山門を抜けるとすぐに拝観料を徴収する窓口がある。拝観料は600円。妥当な値段である。室内に入ってしばらく歩くと、まず最初に書籍や土産物を売る部屋にたどり着く。三千院第1の土産物売り場である。次に写経のための部屋へと繋がる。続く客殿の大広間は、片隅に庭を眺めながらお茶の飲める茶席が設置されている。


客殿の大広間


片隅の茶席

客殿前の聚碧園(作庭:金森宗和)を通り抜けると、大正期に建立された宸殿にたどり着く。ここでは献金や献香を受け付けている。もちろん賽銭箱も設置されている。

宸殿の前、コケに覆われた有清園を通り抜けると紫陽花園が広がる。ここには、たくさんの桜が献木されている。個人から法人まで日本全国から桜の木が収められており、各々に献木者の氏名が明記されている。1本いくらの献木なのかは分からないが、その数はかなりのものである。

紫陽花園を抜けると、平成元年に建立された金色不動堂が見える。堂前の広場ではお茶が振舞われている。年配の女性3人が盛んに勧めるお茶を飲むと、即座にお茶の販売が始まる。金粉入りのシソ茶。ここでシソが大原の気候に合った植物であること、それゆえ大原では「しば漬け」が名産になったことなどを聞かされることになる。もちろん、お茶を振舞う横には土産物売り場がある。三千院第2の土産物売り場である。お守り、線香、書籍、朱印帳、絵葉書、ボールペン、クリアファイルなど、三千院グッズが勢ぞろいだ。

その先、三千院の最も奥に位置する観音堂でも三千院グッズが売られている。三千院第3の土産物売り場である。観音堂には、例によって説法らしき文章が壁に貼られている。ここに一例を挙げておこう。

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観音さまは私達をどんなふうに救って下さるのでしょうか?」
 あなたの苦しみや悲しみを大きな慈しみの心で受け止め悩みを聞いて下さいます。そしてあなたに届く率直なことばで真実をあかされ、最善で納得のいく解決を与えて下さいます。
 そして常に寄りそい、生涯にわたりあなたを助けようと誓われた菩薩が観音さまです。どうか今、お力添えをして頂いて願いをかなえて下さる為、ご祈願や観音像奉納をお進めします。
祈願:3000円、観音像奉納:10000円より

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赤い文字は張り紙に朱色で書かれていた文字である。文法や漢字の使い方に疑問が残る文章だが、それはともかくこの類の張り紙が院内のあちこちに貼られているのである。説法に始まり営業に終わる張り紙。ありがたいような迷惑なような張り紙である。

そもそも3000円もする祈願をお願いする参拝客はどれくらいいるのだろうか。ましてや10000円もする観音像奉納にいたっては、年間にどれくらいの申し込みがあるのか定かではない。そんなことを考えながらふと観音堂の右手に目をやると、実に下のような風景が広がっているのである。





驚きである。観音さまが21世紀の日本でもこれほどの力を持っているとは思わなかった。さらに観音像が並ぶ枠木の前には、またしても張り紙が。

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「今日のご縁に、ぜひ観音像の奉納を。終生お祀りします。一体:10000円」

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さすがである。これだけの運営能力があるからこそ施設の高密度管理が可能なのであり、平成の時代に金色堂を建てるだけの資本を回収することができているのだ。オープンスペースが持つ「永続性」をうまく利用した運営費の徴収。公園の運営が寺に学ぶことは多いのではないか。三千院の運営を垣間見ながら、僕は今後のユニセフパークプロジェクトにおけるマネジメントについて考えていた。

同行したユニセフパークプロジェクトのメンバーは、三千院に何を見ていたのだろうか。メンバーの一人は、そのあと出現した第4の土産物売り場で「交通安全ステッカー」を購入していた。




三千院聚碧園

山崎

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