2007年2月9日金曜日

「情報デザインの重要性」

前回前々回に引き続き、「ファイバーシティ×シュリンキングシティ」のトークインに参加する。

はじめに渡辺氏(ライター)から、縮小する時代における情報デザインのあり方についての問題提起がなされた。高度経済成長期におけるマスメディアは、より多くの人に同じ情報を伝えることが最大の特徴だった。しかし、都市が縮小する時代には、情報デザイン自体が重点を変えなければならない状況が生じることになるだろう。そのとき、これまでとは違った情報デザインのあり方が求められることになる。特に人口が少なくなる世の中においては、コミュニティのあり方とその情報デザインが大切になる。そのことを意識した上で、コミュニティに根ざした情報デザインというものがどのようなものであるかを議論したい、との趣旨説明がなされた。なお、今回のシンポジウムにおける情報デザインはIT系の技術ばかりではなく、広い意味で何らかの情報を伝達することのできる手法を提案するものとする。

続いて、加藤助教授(慶應義塾大学)によるフィールドワークの手法とその情報デザインについての説明があった。加藤氏は、まちづくりに不可欠な3つの主体(わかもの、よそもの、ばかもの)について言及し、大学が地域のまちづくりに関わることの可能性を示した。大学生は、地域において「わかもの」「よそもの」「ばかもの」になることができる。そのためには、学生が地域に興味を持ち、まちづくり活動に加わるきっかけになるツールが必要となる。加藤氏が用いるツールは「フィールドワーク」「プチインターンシップ」「ポストカード」「ポッドキャスト」などである。フィールドワークを通じて地域をしっかり観察し、プチインターンシップを通じて地域の活動に参加し、ポストカードで地域の特性を整理し、ポッドキャストで情報を発信する。加藤氏は意図的に「小さなメディア」を使って情報発信することにしているという。まちに住む人がまちを説明する。その声を録音してポッドキャスティング配信する。小さなメディアを活用することによって、顔の見える関係性を新たに構築する可能性を示唆した。実際に加藤氏は柴又、金沢、坂出のまちづくりに学生とともに参加している。

杉浦氏(NPO横浜コミュニティデザイン・ラボ)は、まちづくりには必ず何人かのキーマンが存在することを指摘した。こうしたキーマン同士が出会うことによってまちづくりの段階は大きく飛躍することが多い。この点に着目し、キーマンが主宰する地域のイベント情報を共有財とするための「地域新聞」を紹介した。地域のイベントを「いつ誰がどこで開催するのか」を集めたポータルサイト的な地域新聞の存在は、まちのキーマンが出会う機会を提供し、さらなるまちづくり活動への展開を期待させるものである。また、コミュニティデザインは、各個人の「自分事」と「他人事」との間にある「自分達事」であるとの発想から、重要な「自分達事」を編集して情報発信するメディアのあり方についても言及した。特にグリーンマップや「関心空間」など、web2.0のツール(SNSやSSRなど)を活用した「自分達事」の編集方法は、これからのまちづくりを新しい段階へと進化させる可能性を持っていると指摘した。

鳥巣氏(千葉大学大学院)は、個人に着目したまちづくりの事例を紹介した。任意の市民の顔写真を使ったポスターをつくり、まちの将来についての希望を沿えてまちの主要駅に掲示する。100人近い人のポスターが掲示されると、駅を利用する人たちのなかに知り合いがいる確率は相当高くなる。駅に掲示されているポスターを見たことがきっかけで久しぶりに連絡を取り合う人が現れたり、まちの将来像について語りあうきっかけになったりする。こうした個人に着目したまちづくりの方向性は、web上で展開されている人と人との結びつきとは違ったアナログな、しかし力強い結びつきをまちに作り出すこととなる。こうした取り組みと同時に、まちづくりに関するイベントやコンペティションを実施することにより、更なる個人を浮き立たせて結びつけるまちづくりのあり方が提示された。

最後に、コミュニティデザインにおける各段階に応じたコミュニティウェアを開発することの重要性について議論された。コミュニティデザインには「発見と評価」「共有と編集」「参加と創造」「持続と発展」の各段階が存在する。これらの段階に応じて、グリーンマップや関心空間、シナリオ法、ソーシャルネットワーキングサービス、メソッドカード、ブログなどを使い分ける必要がある。我々が手に入れた新たなツールを適切な段階に適用することによって、まちづくりを新たな段階へとステップアップさせることができるのではないか、という可能性が提示された。

僕たちが堺市で行った「環濠生活」や家島町で実施している「探られる島」なども、活動を情報のデザインをつなげて新たな局面を生み出そうとするプロジェクトである。実際に、どのプロジェクトからも新しいプロジェクトが生まれ、新しい人と知り合うことができている。情報をデザインすることの重要性を再認識する機会を得た。特に加藤氏のアプローチには激しく共感した。偶然の一致かもしれないが、用いているツールも目指しているところも共有できているように感じた。上京する際には、もう一度加藤氏に会っていろいろ話をしてみたいものである。

追記:その後、加藤氏から自身の研究室でまとめたポストカード集や小冊子などが送られてきました。そのいずれもが大変興味深い取り組みであり、studio-Lのスタッフ一同で何度も読み直しました。大変貴重な資料をお送りいただきありがとうございました。一度、食事にでも行きたいですね>加藤さん。

山崎

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