デザインノートの2006年6号に登場する「MASAMI DESIGN」の高橋正実さんに会う。
高橋さんのオフィスは墨田区の向島にある。自宅兼オフィスの広々とした空間で、1歳になるお子さんと旦那さん、そして神戸出身のスタッフと一緒に仕事をしている。とりたてて強調することでもないが、女性が働く環境としては考え得るレパートリーの中で最高のものだと感じた。
お話していて驚いたのは、高橋さんの口から飛び出す言葉の一つ一つが、これまで僕の考えていたことときわめて一致していたことである。「奇抜なデザインを生み出したいのではなく、目の前の課題を解決するためのデザインがたまたま目立つものになるのである」「課題を解決するためであれば、グラフィックデザインとは違った方法を用いる場合もある」「何が何でもデザインしたいという気持ちはない」「古本屋をめぐるのが好き」「日本の農業を変えてみたいと思っている」「何を目指しているのか問われることが多いが、目標や狙いがあらかじめあるわけではない」。いずれも僕が考えていることとほとんど同じだ。「グラフィックデザイン」を「空間のデザイン」という言葉に置き換えてみれば、僕と高橋さんはほとんど同じことを考えているといえる。
もう1つ驚いたのは、東京にも「もてなしの精神」があったということである。かつて僕は、東京や大阪ではもてなしの精神に出会うことがほとんどなくなったと書いた。ところが、東京の下町である墨田区には、まだそのもてなしの精神が残っていることを知った。高橋さん自身が教えてくれたのである。初めてオフィスを訪れた僕を暖かく迎え入れてくれるだけでなく、自分達が気に入っているお寿司屋さんの寿司を用意して待っていてくれた。ベランダに置かれた水鉢の上にはローソクが浮かんでいて、室内には適度な音量の音楽が流れていた。その空間におけるすべての気遣いが、なんだかとても嬉しいものだった。
家に鍵をかけずに出かけるほどの下町である墨田区向島。この街にある高橋さんの家で、僕は「東京には無いだろう」と思っていた「もてなしの精神」を存分に味わうこととなったのである。
山崎
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