昼から「archireview」に出席する。テーマはカルロ・スカルパのブリオン・ヴェガ墓廟。コーディネーターは安部麻衣さんと吉儀路也さん。
ブリオン・ヴェガ墓廟に対する僕の印象は「緑が活き活きとした墓地」というもの。別段、珍しい植物や大きな樹木を用いているわけではない。しかし、空間全体として植物が自由に成長しているという印象がある。壁を這い登るツタや、まっすぐに伸びるイトスギ。一般的な公園や墓地に比べて、ブリオン・ヴェガ墓廟の植物には独特の躍動感があるように思う。
そんなブリオン・ヴェガ墓廟の分析に先立って、吉儀さんから他のスカルパ作品(ポッサーニョ陳列館、カステルヴェッキオ美術館、オリベッティのショールーム、クエリーニ・スタンパーリア財団、バルボーニ邸、ヴェローナ銀行、オットレンギー邸など)についての説明があった。
印象的だったのはポッサーニョ陳列館。この陳列館は石膏像を展示する美術館なので、展示物はすべて白い石膏でできている。スカルパは、白い展示物に対して、あえて白い壁を用意した。この「ホワイト・オン・ホワイト」によって、石膏像の陰影がかなり強調されることになる。
ポッサーニョ陳列館
とはいえ、スカルパはこの場所にホワイトキューブを作ったわけではない。展示内容が変化してもそこそこ対応できる無味乾燥なホワイトキューブ(白い箱)は、職人肌のスカルパがもっとも嫌う空間の形式だといえよう。一般的な美術館とは違って、ポッサーニョ陳列館では「展示替え」というオペレーションがほとんど想定されていない。どの石膏像も専用の台座に乗っており、その台座はひとつひとつスカルパによってデザインされている。十字架を模した展示台、宙に浮いたような片持ちの展示台、1本の細い柱で支えられた展示台。細部の形態や素材にこだわった展示台のデザインは、ひとつひとつの彫刻作品に対応してデザインされている。ガラス工場で働いていたスカルパらしい職人的な仕事だ。
スカルパのデザインを僕なりの言葉で表現するなら「すべてを決定するつもりのデザイン」ということになるだろう。夥しい数の詳細図やスケッチ。職人との共同作業。何度も重ねられる素材や色の検討。神経質なまでのディテール装飾。すべてが「スカルパの決定」によって誕生する。こうして出来上がった空間は宝石のように美しく、その美しさは永遠に変化しないことを望んでいるかのようだ。
永遠に変化しないことを目指す空間。上述のポッサーニョ陳列館は、展示替えや配置変えを許さない現状凍結型の空間である。同様に、ブリオン・ヴェガ墓廟もコンクリートの壁に囲まれた「永遠の庭」である。コンクリートの壁に刻まれた襞や穿たれた穴は、無限に変化する壁の形態をある時点で永久に凍結したように見える。それはまさしく、無限に続くスカルパの形態操作を、ある時点で凍結した結果として建ち現れる壁なのである。
連続するスカルパの思考をある時点で凍結した結果としてのブリオン・ヴェガ墓廟。気取った言い方をすれば、この墓廟はスカルパの思考の一断面を体現した空間なのである。実際、「瞑想の湖」をボートで回る計画などがあったものの、それらが実現することはなかった。スカルパが死んだのである。1978年、来日していたスカルパは階段から転倒してこの世を去った。その瞬間に凍結されたスカルパの思考は、現在のブリオン・ヴェガ墓廟として永遠を志向し始めることになる。
コンクリートやタイルや金属。永遠に変化しないことを望むブリオン・ヴェガ墓廟において、刻々と変化するものがある。植物である。スカルパが植えたイトスギは大きく育ち、芝生にはマーガレットやシロツメクサが混ざり、壁にはツタが絡みつく。変化しないものの上に変化し続けるものが重なる。「グリーン・オン・グレー」。ブリオン・ヴェガ墓廟の緑が活き活きとしているように見えるのは、永遠を志向するスカルパの建築が細部に至るまで「変化しない」からだろう。
「変化するもの」と「変化しないもの」の拮抗。ブリオン・ヴェガ墓廟は、きっと美しい廃墟になるだろう。石の文化が持つ廃墟の美学を兼ね備えた「永遠の墓地」になるはずだ。
ブリオン・ヴェガ墓廟のエントランス
墓廟外壁のコーナー部分
山崎
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