尼崎にある関西労災病院が新しくなった。長い建て替え工事を終えてのリニューアルオープン。前庭の設計をうちの事務所が担当した。
病院側との協議の結果、「使える庭」を作ろうということになった。単にきれいな花を植えて眺めるだけの前庭ではなく、病院利用者や地域住民が自由に使える庭を作る計画とした。
まず考えたことは、入院患者とその家族が利用できる庭。お見舞いに来た家族が、相部屋で他の患者に遠慮しながら会話するというのは辛い。庭に出てのんびり話をするほうが気持ちいいだろう。語り合える空間が必要である。
病院は病名を告知される場所でもある。告知の内容によっては、一人になりたいときもあるだろう。患者自身が一人になりたいときもあれば、患者の家族や恋人が一人になりたいときもあるはずだ。一人で泣くことのできる空間も必要である。
リハビリのために庭を利用する人も多いだろう。庭全体を安易にバリアフリー化するのではなく、あえてバリアフルな場所を作っておく。退院してから自力で生活できるように、庭の一部に一般的な道路と同じような排水勾配や縦断勾配を設ける。それは、車椅子初心者が走行練習できるような場所である。
庭を介して入院患者が地域住民と接することも重要だろう。庭の維持管理や患者の利用サポートを担うボランティアを募集したところ、定員の4倍を上回る応募があった。800字の論文審査を経て30名のボランティアを登録した。庭の近くには専属の園芸療法士が1名常駐している。ボランティアたちは、この園芸療法士を中心にして庭のマネジメントにあたっている。
現在、日本人が5人いれば1人は65歳以上である。この割合は今後もどんどん高まる傾向にある。政府は、関連施設による治療や介護に加えて、地域での予防や介護を推奨している。これを受けて福祉に関わる協議会やNPOが地域で様々な活動を展開している。
これからの病院とこれからの地域。どちらも福祉的視点を持ってダイナミックに変化していくだろう。どちらの変化も大切である。その上で気になるのが、両者の境界部分である。病院と地域が接する部分。そこは病院利用者と地域住民が出会う場所になる。
関西労災病院の前庭は、福祉型社会における「境界部分」の取り扱いについて考えるきっかけを与えてくれた。
一人の庭
ガーデンボランティア
山崎
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