2004年11月30日火曜日

「ツールと能力」

「マスマティカ」というソフトについて話し合う機会があった。僕は詳しく知らなかったのだが、このソフトは結構優れモノで、既にいろんな業界で使われ始めているらしい。

名前のとおり、基本は数学ソフトである。数式とコマンドによっていろんな操作ができるようになっている。だから物理学や生物学でも利用するし、マーケティングや人口予測にも活用できる。もちろん、建築やランドスケープや土木にも応用できる。

建築やランドスケープに応用した場合、敷地のレイアウトや意匠の検討、3Dモデリングによる構成の検討、多様な素材間に見られる相同性の検討など、さまざまなシーンで活躍する。

しかし、このソフトが優れている点はそれだけではない。マスマティカはいろんな業界で使われている。だからこそ、異業種同士のコラボレーションにおける共通言語として機能するのである。医療、福祉、教育、建設、経済、政治、文学、歴史、アート。異なる分野とコラボレーションする際、もっとも体力を使うのがコミュニケーションの問題だろう。それぞれの分野が独自の用語を使うため、その特定の意味が把握できないことが多い。建築を学ぶものにとって経済の本が読みにくいのと同様に、他の分野の人にとって建築の本は非常に読みにくいのである。ここに、異業種間における共通言語の必要性が見出される。

マスマティカの基本的な考え方を理解すれば、その応用方法は無限に広がる。各業界がマスマティカを使うことになれば、異なる業界でも同じ言語を使って作業を進めることになる。これによって、旧来の異業種間コラボレーションが全く新しいステージへと移行するかもしれない。だからこそ、少し大変だがこの「共通言語」を覚えようとする人が増えているのだろう。

ここで注意したいのは「コミュニケーション能力」と「コミュニケーションツール」の関係である。人は往々にしてコミュニケーションがうまくいかないことを「ツール」の問題として了解したがる。

英語という言語はコミュニケーションのためのツールである。外国人とのコミュニケーションがうまくいかないのは「英語」というツールのレベルが足りないからだと考え、あわてて英会話教室へ通う人がいる。海外で生活していたとき、日本からの留学生が語彙力を高めるために英単語をたくさん暗記しているのを目にした。そこには「英語というコミュニケーションツールのレベルを上げれば自動的にコミュニケーションがスムーズになるだろう」という楽観が漂っている。

しかし、英語は単なるツールである。英会話に求められるのはツールばかりではない。コミュニケーションの能力も重要な側面である。人と接するときの表情、言葉の選び方、会話のテンポ、話題の豊富さ、相づちの入れ方、話の速度や抑揚、身振り、自分の信念や意見など、全人的なコミュニケーション能力が相手に評価される。実際、使う英単語の数は驚くほど少ないにもかかわらず、いつも楽しそうに外国人と会話する人がいる。重要なことは、コミュニケーションに関わる能力とツールのバランスなのである。

自分のコミュニケーション能力の低さをツールでカバーしようとするのは間違いだ。マスマティカは単なるツールである。マスマティカをマスターすれば誰とでも快適にコラボレーションできると思わないほうがいい。どれだけツールの取り扱いに優れていても、コラボレーションしたいと思える相手でなければコミュニケーションは発生しないのだから。

共通言語が無くても、卓越したコミュニケーション能力でそれを乗り越えてしまう人がいる。僕はむしろ、そういう人の能力にあこがれる。

山崎

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