2004年12月1日水曜日

「都市の縮図」

OPUSというフリーペーパーの編集部から「仕事のモットーは何ですか?」と問われた。改めて考えると、答えはいろいろ沸いてくる。

楽しいことをやりたいと思っているのは確かだ。しかし楽しいだけじゃダメだってこともわかっているつもり。最低でもクライアントに満足してもらえるような仕事をしたいと思っている。その上で、クライアントだけでなく社会に対してもプラスに働くようなオプションを狙っている。そして僕自身は、そんな仕事を楽しみながら続けたいと考えている。だから、仕事を持続していけるだけの儲けも必要になる。

以上の考えを「仕事のモットー4段階説」としてまとめると、以下のような優先順位が浮き彫りになる。

第1段階:クライアントの満足
第2段階:社会への貢献
第3段階:自分の楽しみ
第4段階:若干の儲け

しかし、こんな答えはいかにも教科書的だ。「いい人」だと思われかねない。もっと単純で根源的で汎用なモットーがあるはずだ。そんなことを考えながら、一言だけOPUS編集部に返答した。

その一言を含め、100人のデザイナーに聞いた「仕事のモットー」がフリーペーパーとして配布された。ライター、グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー、シェフ、アーティスト、編集者、アートディレクター、家具職人、カフェ店主、建築家、ランドスケープアーキテクトなどなど。「仕事のモットー」の百花繚乱である。

各人の「仕事のモットー」に共通しているのは「仕事を楽しむ」という態度。何らかの形で仕事を楽しんでいる人が多いようだ。でも、僕が気になったのはその表現。「仕事を楽しんでいる」という表現が、職種によって微妙に違っている。

面白い表現はグラフィックデザイナーやアーティストに多く見られる。一方、まじめな表現は建築家やランドスケープアーキテクトに多く見られる。大雑把に分けてしまえば、プライベートセクターの仕事に携わる人は比較的柔軟な表現で読む人を楽しませてくれるが、パブリックセクターの仕事に携わる人はまじめで硬い表現しか持ち合わせていない。

建築家やランドスケープアーキテクトはパブリックセクターの仕事に携わることが多い。社会的責任を意識する機会も多い。勢い、公的な発言に対しては慎重になる。フリーペーパーとはいえ、彼らにとってそれは立派な「パブリック」なのである。そこでは、読み手を楽しませることよりも政治的に正しいことが優先される。その結果、読み手に何の楽しみも与えない「まじめなモットー」が出現することになる。100人の「仕事のモットー」には、ところどころにこうした「まじめで面白くも無いモットー」が混在している。

この構図はちょうど日本の都市に似ている。刺激的で面白い空間の中に、まじめで正しいだけの施設が点在する。そしてそんなまじめな空間をデザインしているのが、ほかでもない建築家やランドスケープアーキテクトなのである。OPUSのフリーペーパーは都市の縮図だと言えよう。


オプスプレス特別号

山崎

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