2005年1月24日月曜日

「空間を使いこなす」

大阪府立大学の農学部に緑地計画の研究室がある。この研究室がランドスケープデザインの演習発表会を開催するということで、批評者として会場の末席に座る。

デザイン演習のテーマは「使いこなす」。このテーマには2つのスケールが含まれる。ひとつは「空間を使いこなす」というスケール。もうひとつは「都市を使いこなす」というスケール。いずれも、利用者の主体性を前提としたテーマである。

発表者は10名。そのほとんどは、「空間を使いこなす」というスケールで設計を進めていた。多様な読み取りが可能な空間を作ることで、人々が主体的に空間を読み取って「使いこなす」。記号的なデザイン(座るためのベンチや歩くための園路など)を廃し、地形の起伏だけで「座る」「寝転ぶ」「歩く」などの行為を受け止めるデザイン。利用者が主体的に空間を読み取ることによって成立するデザインである。

この種のデザインで難しいのは、利用者が空間を読み取るきっかけをどう設定するのかということだろう。利用者の読み取りを容易にしすぎると、記号的な空間ができあがってしまう。記号的な空間は、示された意味内容以外の利用を発生させにくい。ベンチという記号は座る行為以外を排除する。だからなるべくどっちつかずな形態が求められることになる。座ってもいいし、寝転んでもいいし、そこを歩くこともできそうだと思えるような空間。どこからが座る場所で、どこまでが寝転ぶ場所か分からないような空間。利用者の多様な読み取りを可能にする空間。

ところが、その空間を具体的に示す段階なると急に汎用なデザイン言語が顔を出す。その言語は「地形」。地形の起伏を作ることで、座るとも寝るとも歩くとも判断できない空間を作り出そうとする。それ以外のデザイン言語が見つからないのだろうか。発表した大学院生のプランは、多くが「地形」を利用したものだった。芝生の地形、コンクリートの地形、木製デッキの地形、エキスパンドメタルやパンチングメタルの地形。

地形が間違った解答だというつもりはない。しかし、地形の起伏だけですべての利用者が空間を読み取れると信じ込むのはまずい。芝生の起伏に腰をかけたくない人だっているし、そこを人が歩けば芝生は剥げてしまうかもしれない。雨が降った後の芝生マウンドは何も読み取らせてくれないだろうし、濡れた木製デッキの地形は滑りやすい。夏場のパンチングメタルに寝転ぶことなど不可能だろう。真っ白に塗装されたコンクリートの地形がどれだけの照り返しを発生させるのかは想像に難くない。

僕らは「地形の起伏」以外のデザイン言語を見つけ出さなければならない。天候や季節によって利用者が空間を選択できるように、多様な読み取りが可能なデザイン言語も複数用意しておくべきなのである。

例えば建築家の藤本壮介さんが提示した「N-HOUSE」というプロジェクトは、350mm間隔でスラブを積み重ねた住居である。350mmなら座る場所になるし、2段分の700mmなら机になる。3段分の1050mmなら棚になるだろう。それぞれの高さを住人が読み取って空間を使いこなす。このプロジェクトでは「積層」というデザイン言語が採用されている。

週末の「archiforum」は件の藤本さんをゲストに迎える。大阪府立大学の大学院生には、ぜひとも会場で新しいデザイン言語を見つけ出してもらいたい。

山崎

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