2009年5月25日月曜日

ゴールデンゲートブリッジからクリシーフィールドへ

 アメリカでは三連休の最終日。パークセンターなどは休日でスタッフが誰もいないだろうから、休日の公園利用実態を観察するべくゴールデンゲートブリッジ周辺とクリシーフィールドへ。ゴールデンゲートブリッジはさすがに観光地で、多くの人が訪れていた。人間が造ったものにこれだけの人間が惹きつけられるというのはすごいことだと感じる。これは設計者の功績であるとともに、それをサンフランシスコの顔としてプロモーションした人たちの功績であるといえよう。立地、デザイン、物語、政治など、複数の要因が重なり合ってこういう場所が生まれるんだということを実感する。
 ゴールデンゲートブリッジへ向かうバスのなかで、スイス人の年配の女性と知り合った。彼女はアートに興味があるということなので、スイスの建築家が設計した美術館がゴールデンゲートパークのなかにあることを伝える。すかさず彼女から「ヘルツォーク・アンド・ド・ムーロンの設計でしょ」という返答があったので、スイスでの彼らの知名度の高さに驚いた。が、実はこの女性、単なるアート好きではなく映像作家で、ヘルツォークたちがニューヨークで設計している超高層建築の建築現場を映像で取材してサンフランシスコへ来たばかりだという。スイスではアルプスに近い村に住んで活動しているのだが、バーゼルのヘルツォーク事務所を尋ね、ニューヨークでのプロジェクトを映像に収めるという作品づくりに協力してもらうことになったそうだ。ほかにも、ピーターズントーが設計した温浴施設の映像化など、スイス人建築家とのコラボが多いという。さらに、今は日本か中国で書道を学びたいという。素朴なおばさんといった感じの人だが、興味の幅はかなり広い。「スイスへ来ればいろんな場所を案内する」と行って連絡先をくれた。旅をすると、さらに行きたい場所が増えてしまう。スイスはまだ行ったことが無い国なので、ぜひ次の機会にはかの地へ行ってみたいものだ。
 ゴールデンゲートブリッジから歩いてサンフランシスコ湾へ降りていくと、フォートポイントとクリシーフィールドへとつながる。フォートポイントはゴールデンゲートブリッジを間近に見ることができる公園として人気が高い。多くの人たちがバーベキューやランニングや犬の散歩などをしていた。やはり、アメリカ人は屋外で使うツールをたくさん持っている。また、その種のツールがたくさん開発されて市場に出回っている。ナイキとアップルが協働して、マラソンシューズに装着した歩数計からワイヤレスで腕にはめたiPODまで歩数データを飛ばして蓄積するというシステムを作り出した理由がよくわかる。そういうセットがたくさん売れるほど、アメリカ人は音楽を聴きながらマラソンする。どうせなら走った距離やペースや消費カロリーを記録できたほうがいいだろう、という発想になるわけだ。
 フォートポイントにあるウォーミングハットという建物には、カフェやショップが入っている。このショップの売り物はかなり充実していて、都心部のオシャレなエコショップよりも充実した品揃えだった。ゴールデンゲートブリッジに関するお土産物だけではなく、石鹸やオイル、食料品、ハチミツのほかに、本やステーショナリーやトートバッグなど、デザイン的にも優れた商品がたくさん集められている。さらに、「みなさんのお買い上げは公園のマネジメントに役立ちます」というサインが掲げられており、売り上げの一部が公園運営費に回されていることが明示されている。買い物をすれば公園が良くなる。買い物をすれば小学生たちが参加するプログラムが増える。こういうイメージを前面に打ち出したインテリアは、ショッピングという行為を消費者自身が正当化するきっかけを与えるという意味でうまい戦略だと感じる。
 ウォーミングハットから歩いてクリシーフィールドへ。クリシーフィールドは5年前より自然再生が進んでいた。クリシーフィールドセンターは休日とあってディレクターが誰もいなかったが、ブックショップでクリシーフィールド関連の書籍を何冊か見つけたので購入した。また、いくつか面白そうなツールがあったので合わせて購入した。ここでオルムステッドに関する絵本を発見。「公園をつくった人」というタイトルで、オルムステッドの業績を子どもに分かりやすい絵本としてまとめたもの。日本でいえば本多静六さんの絵本が発売されるようなものだ。この種の本が発売されるというのは、ランドスケープアーキテクトの社会的な認知度を上げるとともに、次世代の担い手を広く醸成するという意味でうらやましいことだと感じる。
 さらに歩いてプレシディオのパークセンターへ。ここはかつて軍の司令官が滞在した場所だったということで、大広間や会議室などを併設したかなり立派な建物である。ここにプレシディオが軍の基地としてどう発展してきたかが展示してあり、軍服を着たおじいさんたちがボランティアとして戦争の頃の話をしてくれる。ここにもストアがあって、軍関係の資料などが売られている。ここでゴールデンゲート国立公園全体の環境デザインがどう進められてきたのかをまとめた本を見つけたので購入。値段が分からなかったのでレジへ持っていくと3500円くらいだと教えてくれる。レジのおばさんは笑いながら「写真も載ってなくてモノクロで難しい文章ばかり書いてあるのに3500円というのは高すぎるね。私ならこんな本は買わないわ。アーバンデザインか都市計画の専門家しかこの種の本は買わないだろうね」という。あまり商品を売る気がないのか、あるいはこの本を手にした瞬間から僕の職業を見抜いていたのか。いずれにしても面白い売り方である。
 帰りはローレンス・ハルプリンが設計したギラデリスクエアへ立ち寄る。先日発見した「無料ワイヤレス接続できます」という広場へ行って、持参したノートPCで接続を確認する。あまり電波は良くないが、確かに無料でインターネットに接続できる。接続したらブラウザを立ち上げ、ギラデリスクエアが提示する利用規約を読み、それを受け入れるというボタンを押すとインターネットにつながる。その際、トップページとして出てくるのがギラデリスクエアのページであり、今日のイベントやお買い得情報などがオシャレに提示される。無料でLANが使えるというのは、無料でトイレが使えるとか、無料で水飲み場が使えるというのと同じように、現代のオープンスペースに必要なインフラ的機能であると感じる。特に旅行者が多いベイエリアのオープンスペースであればなおさらである。
 夜になってさらに冷え込んできたので、ダウンタウンへ戻ってGAPのセカンドラインであるOLD NAVYに駆け込む。ここはGAPより安い値段で服を売ってくれるアメリカのユニクロ的存在で、急に欲しくなった服を買うにはちょうどいい。防寒用にカットソーとニット帽を購入する。
 夕食は久しぶりにバーガーキングへ。オーストラリアに住んでいるときもお世話になったハンバーガー屋さんで、かなり懐かしい味だった。ここのハンバーガーはなぜか炭火焼きの味がする。が、キッチンのなかで炭を使っている気配はない。昔から不思議だったが、今回改めて不思議な気分になった。なぜこれほど炭火焼きの味がするのか。すでに工場で炭火焼きとしてつくったハンバーグを各店舗に輸送して、店舗ではそれを過熱しているだけなのか。それとも、「炭フレーバー」なるものがあって、それをハンバーグに振りかけてパンに挟み込んでいるのか。前者であって欲しいと思いながら夕食を済ませた。

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