2009年5月30日土曜日

シーランチへ

11時にホテル前にスコットという男性が車で迎えにきてくれる。福西氏の知り合いでサンフランシスコの南1時間の場所にあるサンノゼに住んでいる人だという。スコット氏は母親が日本人なので、アメリカに住む人にしては珍しくとても丁寧なしゃべり方で親切な人だった。スコットの車に乗ってサンフランシスコからゴールデンゲートブリッジを越え、北へ向かう。最初に到着したのはマリン郡の庁舎とコミュニティーセンター。この建物はフランク・ロイド・ライトが生前設計して、その死後に完成したもの。庁舎は中庭が吹き抜けで4層分を貫いており、天井のアーケードからは太陽光が各階に降り注いでいる。カーブを多用した優しい印象のインテリアで好感が持てる。地元の人たちも日本人がカメラを携えて来る理由が何なのかを知っていて、少し自慢げに建物の話をしてくれる。晩年のライトが肩の力を抜いて設計した建築が、地域の人たちに愛されていることを実感する。

その後、さらに車で2時間走り、念願のシーランチコンドミニアムに到着する。ここはランドスケープ・アーキテクトのローレンス・ハルプリンが敷地調査および敷地計画を立案し、建築物の三次元的なコードをつくり、それに基づいて建築家のチャールズ・ムーアがコンドミニアムを設計したというもの。同行したスコット氏が、ランドスケープアーキテクトの仕事はどの部分なのか?と訪ねるほど、ふつうの自然景観が広がっている。ハルプリンは、敷地全体の生態的な生物の生息状態や景観、風雨の影響や日光の季節変化などを調査し、どの場所にどんなサイズの建物を建てるべきかを決定した。森の中に建つものもあれば、断崖のそばに建つものもある。地面を彫り込んで半地下に建てるものもある。こうした「建て方」を決定することで全体のランドスケープを作りだし、ここの建築物の設計は建築家に任せる。これは理想的なランドスケープデザインのプロセスであるといえよう。必要ないのにストライプの床をつくったりグリッドの樹木を植えたりしなければお金がもらえないというタイプのランドスケープアーキテクトの仕事とは一線をかくす仕事であり、うらやましいタイプの仕事である。シーランチは何気ない自然があふれる場所で、ワイルドフラワーが咲くなかをのんびり歩いたり座ったりできるような小道が配されている。歩いていると、鳥やリスやシカに出会うなど、なかなか豊かな経験ができる場所だった。これまで何度と無く大学の講義で学生に説明してきたプロジェクトだったが、その場所がどんな空間なのかを実体験できたのは貴重なことだ。サンフランシスコからの距離を考えると、自分一人でたどり着くことは難しかっただろう。スコット氏と紹介してくれた福西氏に感謝したい。

帰りはサンフランシスコの手前の街で止まって夕食。スコット氏おすすめのタイ料理屋へ行く。またしてもアジア料理でホッとする。

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